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収容所群島・・抜粋(1)

収容所群島(1) 1918-1956 文学的考察
ソルジェニーツィン / / ブッキング
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旧ソ連の政治犯などが≪ぶち込まれた≫矯正収容所についての書物です。
書評を書ける自信がないので・・・自分の考えをまとめる意味で心に刺さったくだりのみ抜粋しました。興味のある方は御一読を。興味のない方はスルーでw


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私は胸に何か重苦しいものを感じながら、数年の間、すでに完成したこの書物の出版を思いとどまってきた。

それはまだ生きている人たちに対する義務のほうが、死んでしまった人たちに対する義務よりも重かったからである。

しかし、いずれにしても国家保安委員会がこの書物を押収してしまった今となっては、ただちにこの本に出版にふみきるほかに残された道はないのである。

木村浩訳「収容所群島1」
『献辞』冒頭より抜粋


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私はこの≪群島≫で過ごした十一年間を恥だとも呪わしい悪夢とも思わず、かえって自分の血とし肉とした。いや、それどころか、私はあの醜い世界をほとんど愛さんばかりであった。
そしていまや、幸せなめぐり合わせによって、≪群島≫の新しい話や手紙がたくさん私のもとに寄せられている。だから私はそうした骨や肉をいくらか提供できるかもしれない。

中略

この物語を創るのはひとりの人間にあまることであった。私が自分の目と耳を働かせ、自分の皮膚と記憶に焼きつけて、≪群島≫から持ち出せるだけ持ち出したもののほかに・・・

総計二二二七人

に及ぶ人々が、その物語や回想や手紙の形で、この書物の資料にとなるものを、提供しくれたのである。
私はそれらの人々に対して、ここで私個人の謝意を表すことはしない。それは、この書物が迫害され責め殺されたすべての人びとのためにわれわれが一致協力してうちたてた鎮魂の碑だからである。

木村浩訳「収容所群島1」
『献辞』より抜粋


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その頃はこんな具合だったという情景をひとつ紹介しよう。

(モスクワ州で)地区の党代表者会議が行われている。会議の進行を務めているのは、さいきんぶち込まれた書記の代わりに任命された地区委員会の新しい書記だ。
会議の終わりに同志スターリンにあてた忠誠のメッセージが採択される。もちろん、全員が立ち上がる(会議の途中でもスターリンの名が出るたびに全員がいっせいに立ち上がったが)。

小さな会議室に≪嵐のような大喝采≫が巻き起こる。三分、四分、五分、と経っても依然として嵐のような大喝采が続いている。もう掌が痛い。いや、挙げた腕もしびれてしまった。年配の人々は息を切らしている。いまではスターリンを心の底から崇拝している人びとにさえ耐えがたいほどばからしくなっている。だが、いったい思い切って先頭をきって拍手をやめるものがいるだろうか?それができるのは演壇に立ってたった今このメッセージを朗読したばかりの地区委員会書記のはずだ。

だが彼は最近なったばかりだから、彼はぶち込まれた前任者の代りだから、彼自身がおっかなびっくりなのだ!誰が最初にやめるかを彼らは注視しているのだ!・・・・・・こうして名もない小会議室の拍手は≪指導者≫も知らないまままだ続く。

六分! 七分! 八分・・・・・

もう駄目だ!万事休すだ!心臓が破裂してぶっ倒れるまで、もうやめるわけにはいかないのだ!これがまだ会議室の奥の隅っこの方なら、人が混んでるし、拍手の回数を減らしたり、叩き方を加減したりしてちょっぴりインチキをやることができようが、人の目が向いている幹部席いては!?

土地の製紙工場の工場長は自主性のあるしっかりした人間だが、彼も幹部席に立ち、この拍手は欺瞞だ、このままではにっちもさっちもいかないと知りつつ拍手している!

九分! 十分! 

彼はもの思わしげに地区委員会書記を見るが、書記はやめようとしない。ばかげている!どいつここいつも!かすかな期待を込めて互いを見渡しながら、だが顔には歓喜の表情を浮かべて、地区の指導者たちはぶっ倒れるまで、担架で外に運び出されるまで拍手を続けるだろう!そんなことになっても残った者たちは身じろぎもしまい!・・・・・・・

そこで製紙工場の工場長は十二分目にさりげないふうを装い、幹部席の自分の席に腰を下ろす。
すると――おお、奇跡!――抑えきれないような、筆舌に尽くしがたいような全員の熱狂はどこへ消え失せてしまったのだろう?皆いっせいにそこで拍手をやめ、やはり腰を下ろす。助かった!
一匹の栗鼠が車から飛び出すことに気づいたのだ!・・・・

だがしかし、ちょうどこんな具合にして自主性のある人たちがかわってしまうのだ。
ちょうどこんな具合にして自主性のあるひとたちが取り除かれてしまうのだ。
その晩、工場長は逮捕された。
彼にはまったく別件で十年の刑が申し渡される。だが彼が二〇六号(最終調書)に署名した後、取調官はこんな注意をする。

「だから決して最初に拍手をやめてはいけないんですよ!」
(それではどうしたらいいと言うのだ?どうしたら拍手はやめられると言うのだ?・・・・)


木村浩訳「収容所群島1」
第二章104項『わが下水道の歴史』


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まあ、こんな感じでやっていきます。
消化の助けになればいいんだけど・・・無駄骨になるような気が・・・(笑)
by love_chicken | 2007-10-21 10:58
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