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収容所群島・・抜粋(3)

すみません・・最近本当にネタがなくて。。


収容所群島(1) 1918-1956 文学的考察
ソルジェニーツィン / / ブッキング
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旧ソ連の政治犯などが≪ぶち込まれた≫矯正収容所についての書物です。
書評を書ける自信がないので・・・自分の考えをまとめる意味で心に刺さったくだりのみ抜粋しました。興味のある方は御一読を。興味のない方はスルーでw


*****

私たちはブトゥイルキ監獄の駅(駅とは囚人たちを受け入れたり、送り出したりする場所のことで、この名称はぴったりしている。それに表玄関は立派な駅に似ていた)へ連れて行かれ、大きな広々としたボックスへ追い込まれた。

(中略)

三時間誰も私たちをかまわなかった。誰も扉を開けなかった。私たちはボックスの中をぐるぐると歩きまわって、疲れては石のベンチに腰を落とした。小枝はなおも揺れていた。明るいすき間の向こう側でずっと揺れ続けていた。スズメたちは気が狂ったように囀り交わしていた。

突然、扉が大きな音をたてて開いた、そして私たちの中の一人、年のころ三十五歳ぐらいのおとなしい会計係が呼び出された。彼が出ると、扉が閉まった。私たちはさらに激しく箱の中を走り回った。どうにも心の高ぶりを抑えることができなかったのだ。

またもや扉をガタガタとさせる音。別の者が呼び出され、まえの者が戻ってきた。私たちは彼のもとに殺到した。しかし、それはもはやあの彼ではなかった!
その顔には生気がなかった。その大きく見開かれた目も盲(めしい)同然であった。彼は頼りなさげな足どりでボックスの滑らかな床のうえをふらふらとよろめいていった。なにか強烈なショックを受けたのだろうか。アイロン台ででも殴られたのだろうか。

「どうした?どうしたんだ?」

私たちは胸を締め付けられる思いで訊ねた(彼は電気椅子から戻ってきたのではないとしても、少なくとも死刑の判決を受けたのにちがいない)。宇宙の終末を告げるような声で、会計係はようやく呟いた。

「五・・・・・年だ!!!」

それからまた扉が大きな音をたてた。が、今度はまるで小用を足しに便所に連れ出したみたいに、瞬く間に戻ってきた。戻った男は満面に笑みを浮かべている。彼は釈放されたみたいだ。

「どうだ?どうだった?」

私たちは甦った希望をもって彼を取り囲んだ。彼は笑いをこらえきれず、片腕を大きく振りまわした。

「なに、十五年さ!」

その答えはあまりにもばかばかしく、とてもすぐには信じられなかった。


木村浩訳「収容所群島1」
第六章367項『その年の春』


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by love_chicken | 2007-11-06 00:00
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